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ピンヒール修理

靴の踵を直そうと、昨年買った夏のサンダルを靴修理に出した。
ニューヨークは最近寒くて、まだショートブーツを履いているくらいだが、暑くなるであろう夏のために今から駅前の靴屋に立ち寄った。

靴チケットを見せて返却してもらう。
が、おじさん「このヒールは難しい、修理できなかったよ。」と踵を見ると、プラスチックのチップが取れたヒールの底に金属の突起物。この突起物には穴が空いており、ここにゴムのチップの釘部分を填めるようになっているのだが、その突起物、特殊すぎて「おじさんこれ直っていないじゃないか。元に戻せ」と責めても、おじさんとしては踵に元々付いていたプラスチックを引っこ抜き「金属の突起は抜けないしここにはゴムのソールを埋め込めない」と言い張る。

そんなこと最初に言えよ。おやじ。

おじさんの前には履けなくなった踵のサンダルが転がっている。
細い踵の底にもうひとつ釘のような突起物がむき出していて歩くこともできない。
南米出身の靴屋は履けなくした靴を見てご愁傷様。と知らん顔。
全くふざけた国だ。靴の修理もできないのか。この国は。とアメリカのせいにする。
日本だったら、駅前の靴屋のおやじがどんな靴でも修理するのに。


ぶつぶつ言いながら、もう一つの修理屋に足を運ぶ。

間口の狭い、奥の方で目だけが輝いている靴屋のおやじ、こちらはユダヤ人。頭にはキッパと言う小さな帽子をかぶる鉤鼻のおやじがこちらを見る。
「サンダルなおしてください」それだけいうと、おやじは踵を見て、これはあかん。という表情。ペンチを持ってきて踵の突起物を挟み、とんかちでガツガツ。カットしようとしている。おじさんだいじょうぶかな。
不審な顔でおじさんを見る。

それにしても汚い店だな。
こんなの誰が履くのだと思うような、イタリアンスタイル、フレンチスタイル、と書かれたップラスティックの棚に、おじさんが革から創ったのかというほこりまみれの靴がディスプレーされている。おじさんは、こちらの不審顔も気にせず、ガツガツととんかちをたたく。

電話が鳴り、おじさんは肩と首の間に受話器を挟み、ヘブライ語で喋る。音量を絞ったラジオもヘブライ語だ。
ヘブライ語とトンカチの音、狭い店の中にただ突っ立って、数十分くらいおじさんの手元を見ていた。これで直らなかったどうするのだ。これだけ踵の突起物を潰して、この後いったい作戦はあるのか。と。

お客さんが入ってきた。白人マダムは、買い物袋を椅子に置き、ゆっくり腰掛け「時計のバンドをなおしてくださいな。」と言い、おじさんは一瞬待って、と言いながらトンカチの手を休め時計バンドから古い革を引きちぎる。マダムは私にほほえみかけ、「すみません、横はいりしちゃって。」と恐縮するが、こちらはそれどころではなく、お気に入りの夏のサンダルか生きるか死ぬかの瀬戸際なので、靴屋にここで手を休めて、急がずゆっくりと戦略を練ってほしかったので「いいですよ。」とマダムにほほえみかけた。

時計のバンドの修理が終わると、おじさん再び参戦。とんかちとペンチではカットできないであろう突起物を金属研磨機にかけ、平らにカットする。火花が散ると何事もなかったように、平らなヒールになった。
しかし、私はなぜ修理屋に靴を出したかというと、プラスチックの靴底チップがすり減り、中の金属がむき出して、道路で滑りやすくなっているから、底にゴムのチップを埋めてほしかったのだ。

しかもその靴はヒールごと硬い金属でできている、いわゆるピンヒールのようなデザインなのだ。踵の高さは105ミリ・直径たった8ミリ。
これを履くと身長が1メートル70センチになる嬉しい代物なのだけど。

しかし・・・、おやじ、この先どうするのだ。突起物は取れたのは良いが、そしてどうするつもり?
おやじはおもむろに電気ドリルを持ち出し、一番細い釘のような先っぽを取り付け、ガルルルル〜〜。おおっと、直径8ミリの金属の踵に底から電気ドリルを差し込んだ。

ええ、これ大丈夫なのかい。

これでヒールが折れたりして・・・・。不信感は続く。
なかなか金属の踵に穴は空かない。おやじ悪戦苦闘。
ガルルルル〜。
三畳ほどの店中に音が響く。ヘブライ語ラジオも聞こえない。

別のお客が入ってきた。
ティンバーランドを履いた黒人。ようおじさん、踵にゴムつけてくれ。
まだ新品の靴底にプラスティックの踵保護ソールを打ち付ける。
あれ、この黒人さん用意周到だな。靴底が減る前に保護している。


休めた手に再び電気ドリルを持ち、深さ1センチくらいまで削る。
ガルルルル〜。
ああ、大丈夫かな?ガルルルルル〜。
もう片方の踵にもガルルルル〜。

直径8ミリのピンヒールの底にやっと穴が空いたみたいだ。
ゴムの小さな靴底を打ち付ける。ガツガツガツ。

やったー。これだよこれ、私がほしかったゴムの踵は。
ありがとうおじさん。

無言で無表情のおじさんの顔がほころんだ。
「他の靴屋で修理できなかった代物だろ?」と最初から分かっていたのだ。
ありがとう。一〇ドルを払う。熱戦の約20分間。
「三〇分は履いちゃ駄目だよ。まだ熱いからね。」

できたてほやほやの夏のサンダルを見ながら
「やればできるじゃないかアメリカ〜」と関係ないであろう事を思った。
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by chiesuzukihome | 2005-05-27 15:52 | ニューヨークシティ | Comments(0)
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